今回レビューする作品は『428 封鎖された渋谷で』です。
2009年にPS3で発売されたゲームですが、2018年にPS4でも移植された作品です。
サウンドノベルの最高峰として君臨し、当時のファミ通のクロスレビューでも40点満点を叩き出した傑作です。
サウンドノベルとは何か?
そもそも「サウンドノベル」という言葉に馴染みのない方もいると思います。
「サウンドノベル」は、小説のようにテキストを読み、所々で提示される”選択肢”を選択することで物語の展開が変わるというもの。
画面には、背景画像とBGM・効果音が差し込まれることで、テキスト情報だけではなく、視覚・聴覚を刺激し、小説とは違う強い没入感を生むことができました。
サウンドノベルの1作目はスーパーファミコンで発売された『弟切草』というホラー作品。
当時としては非常に高いグラフィック表現と、BGM・効果音を巧みに利用した演出に驚きました。
サウンドノベルで最も有名な作品と言えば『かまいたちの夜』でしょう。
雪山の山荘というクローズド・サークルで繰り広げられる惨劇を描いたサスペンス。
『こんや、12じ、だれかがしぬ』
という、テキストはあまりにも有名です。
魅力的で”クセ”のある主要人物
それでは、『428 封鎖された渋谷で』の説明といきましょう。
『428 封鎖された渋谷で』で登場する主要人物は5人。
それぞれが魅力的でありながら、人間らしい”クセ”を持った人物ばかりです。
その5人を簡単に紹介していきます。
加納 慎也
加納 慎也(かのう しんや)。
渋谷中央署の刑事。
正義感あふれる新米刑事だが、感情的になることが多く、ムラがある。
そういった自分の未熟さを受け入れつつ、先輩刑事である建野京三(たての きょうぞう)に強い憧れを抱いており、建野の言葉を「デカ魂メモ」として自身の行動の規範とし、行動することを心掛けている。
現在、ある身代金要求型誘拐事件を担当することとなり、それが今回の物語として描かれている。
遠藤 亜智
遠藤 亜智(えんどう あち)。
生まれも育ちも渋谷で、とにかく渋谷を心から愛している。
以前は渋谷の若者を統率する「KOK」の初代ヘッド(懐かしい)であったが、とある事情により脱退。
今は渋谷の街のゴミ拾いをしている。
仕事はしていない。
御法川 実
御法川 実(みのりかわ みのる)。
何かと”クセ”の強いフリーライター。
自分の記事に絶対的な自信をもっており、それ故か、傍若無人で傲慢な態度として露骨に表れることが多い。
ただ、それは逆に言うと自身の正義感の強い表れであり、誤解されやすいが義理人情に厚いという側面も持っている。
何度も言うが、とにかく”クセ”が強い。
大沢 賢治
大沢 賢治(おおさわ けんじ)。
大越製薬の所長。
ウイルス研究の第一人者であり、研究こそが我が人生といったところ。
彼の興味は”人”には無く、研究を捧げる”ウイルス”にある。
「凪のような人生を送りたい」と切に願っており、他者との関わりを極端に避けている。
それが家族であっても同様である。
タマ
タマ(たま)。
見た目そのままで猫の着ぐるみを着た人物。
雑貨屋で見つけたペンダント欲しさにアルバイトをしているが、バイトの内容は「バーニングハンマー」といういかにも詐欺めいた商品を売るというものだ。
着ぐるみの造りが悪かったのか、ファスナーが壊れてしまい、着ぐるみを脱げなくなったことから怒涛の物語が展開される。
サウンドノベル史上最も完成されたゲームシステム
これまでのサウンドノベルでは、「テキスト中に提示される選択肢によって変化するストーリーを楽しむ」というのが主流でしたが、『428 封鎖された渋谷で』では物凄い進化を遂げました。
選択肢によるストーリーの変化を楽しむというシステムのほかに・・・
- JUMP(ジャンプ)
- KEEP OUT(キープアウト)
- TIP(ティップ)
というシステムが加わったことにより、登場人物達のストーリーをザッピングさせながら進めるという手法へ変化しました。
これが秀逸過ぎた!!
この3つのシステムについて簡単に説明します。
JUMP(ジャンプ)
「JUMP」とは、今操作している登場人物のストーリーから別の人物のストーリーへ飛ぶこと。
まさにJUMP(飛ぶ)です。
JUMPには条件があり、
- テキスト上で選択できる人物等の名前を選択すること
- JUMP先で指定された時間まで、登場人物のストーリーが進んでいること
この2つが条件となります。
KEEP OUT(キープアウト)
通常のサウンドノベルであれば、テキストを読み、選択肢を選択することで物語を最後まで読み進めることができるのですが、『428 封鎖された渋谷で』はストーリーが途中で進めなくなってしまいます。
こちらもまさにKEEP OUT(立ち入り禁止)です。
このKEEP OUTを解除するために必要なことが、前述した「JUMP」なんです。
JUMPでは、「JUMP先に指定された時間まで、登場人物のストーリーが進んでいること」が条件になってますが、これがKEEP OUT開放のキーとなっていることが多いです。
このことからもわかるように、特定の人物だけの物語を最後まで進めることが出来ない仕様となっています。
TIP(ティップ)
「TIP」は、テキスト上に現れる用語の追加説明になります。
単に用語の説明だけでなく、別の登場人物が行った行動なども説明されているため、ストーリーを進める上でかなり役に立つ情報も多いです。
また、TIPの中にも特定の人物のストーリーを進めることができるJUMPも隠れていることがあるため、こちらも非常に重要な要素となっています。
全員の行動が”同時進行している”ことを実感させるシナリオ展開
もう一点特筆すべきポイントがあります。
それは、「全員の行動が”同時進行している”ことを実感させるシナリオ展開」です。
『428 封鎖された渋谷で』の始まりの時間は午前10時。
ここから、1時間ごとにストーリーが区切られています。
例えば、10時から11時までストーリーを進めます。
11時以降のストーリーを始めるには、その時間帯(10時~11時)で登場する人物全員のストーリーを「TO BE CONTINUED」まで終わらせなければいけません。
一見遠回りしているような面倒さを覚えそうですが、全員が同じ時間軸でそれぞれのストーリーを進めていることを実感しやすく、それぞれの登場人物のストーリーが置いてけぼりにならないので、すべてが同時進行している感覚を強く感じる事が出来ます。
チャートフローも時間軸によって表示されており、全員の行動を非常に把握しやすいです。
基本的な進め方
『428 封鎖された渋谷で』の進め方についてです。
個人差は多少出ると思いますが、基本的には
BAD ENDを回収しつつ、エンディングを目指す
という流れになります。
BAD ENDに至らずにクリアするというのは不可能な構成になっています(……多分)。
そのため”ストーリーをクリアする”という目的はあるものの、
BAD ENDから未来に起こることを体験しつつ、そうならない(回避する)ために行動する
というアクションを取り続けていく事となります。
それでいて、BAD ENDのストーリーも面白いんですよね。
全く予想だにしない結末もあるので、楽しいんですよ。
また、「今回はかなり親切だなぁ」と思った要素があります。
それは「BAD ENDを迎えると、そうならない為のヒントを提示してくれる」こと。
しかも、結構具体的にヒントを提示してくれます。
これまでのサウンドノベルは、基本的にノーヒントが多かったので”詰みがち”だったのですが、ヒントのおかげで詰みにくくなりました。
もちろん、クリアに至る自分の推理・考察を深く楽しみたいという人は、ヒントの部分を見ないで進めることも出来るのでこの配慮も◎です。
数多く存在するBAD ENDを回収することで出現するボーナスシナリオもあるので、どんどんBAD ENDに向かってほしいですw
存分に楽しんで欲しいポイントは”ココ”だ!
『428 封鎖された渋谷で』は、サウンドノベルという仕様上、「主人公を自発的に動かして派手なアクションをかます」という操作は存在しません。
しかし、このゲーム。
”文字を読んでいるだけ”なのに、実際に主人公たちを操作していると思うほど強い没入感を生みます。
テキストの表現が段違いに凄いんですよ!
【主人公たちが考察している部分】では、テキスト量も多く、しかし、分かりやすくゆっくりとした表現で。
【空気がひり付く様な緊迫した場面】では、画像でイメージを補完しつつ、テキスト量を減らしている(と思う)ので、物凄いスピード感があるんですよ。
・・・ごめんなさい。
ピンとこないですよねw
ちょっと興奮しました。
ある種の「緊張と緩和」が体現されていると思うんです。
難しい漢字も出てきますが、文脈の前後の表現で言わんとすることが大体わかるので、まるで気になりません。
もし、この作品を手に取ってプレイしたならば、おそらくこの感覚を共有できると思います。
絶対プレイしてほしい「鈴音編」
あと、メインストーリーをクリアしたあとに、必ずプレイしてほしいシナリオがあります。
それは「鈴音編」という追加シナリオです。
選択肢は存在せず、読み進めるだけのシナリオなのですが、これが素晴らしい!
ネタバレはしたくないので、内容は語りませんが、号泣必至のシナリオです。
ただ、シナリオの出現条件だけはお伝えしておきます。
- メインストーリーをクリアする
- BAD ENDを50個以上見る(回収する)
BAD ENDは普通にクリアすれば、50個は軽く回収できるのであまり気にしなくても良いかもしれません。
まとめ
サウンドノベルは、「文字を読み進める」という性質上、今のゲームの作りからすると古さを感じるかもしれません。
しかし、そのシンプルさ故にストーリーの質の高さを求められるゲームでもあります。
そういった側面において『428封鎖された渋谷で』は、ストーリーの完成度が恐ろしく高い作品であることは間違いありません。
ゲームシステムも秀逸です。
「昔、気になっていたけどプレイする機会がなかった」という方へ。
「”あなた”の勘は間違っていなかった」と伝えたいです。
そして、出来る事ならこのレビューをご覧頂いた事をきっかけに、是非手に取ってプレイして頂きたいです。
※TOP画像は『ファミ通.com』より引用
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